京浜急行北品川駅近くの住宅地の中に同社はある。
同社はパット印刷、スクリーン印刷を営むユニークな企業である。平成6年には東京都信用金庫協会から優良企業表彰を受賞した。

「ガリ版印刷」、学生時代お世話になった方も多いのではないか。スクリーン印刷は、ガリ版印刷と酷似した印刷で、孔版印刷ともいわれる。原版の中央部には印刷する文字や絵柄が微細な孔によって食刻されていて、その部分にインクを通すことで印刷ができる。
同社は、昭和36年の創業以来、樹脂成形品へのスクリーン印刷に特化してきた。しかしスクリーン印刷のメーカーはこの城南地区には多い。このため同社が15年前から始めたのがパッド印刷といわれる事業である。

「現在の我が社の年商の7〜8割はパッド印刷。パッド印刷はどんな複雑な形状にも印刷できる」

、人柄のよさそうな滝澤社長は言う。
パッド印刷の原理を左図に示した。原版には印刷したい文字や絵柄が刻まれ、その凹部分にインキが埋め込められる。シリコンゴムで出来たパッドといわれる印刷材が原版からインキを広い、パッド表面に付いたインキの溶剤を蒸発させ、粘着力を上げてから、インキを被印刷物に転写させるというもの。パッドが板状ではインクは拾えないので、パッドの形状はたとえば球面になっている。どんなものに印刷ができるのか。
例えば、野球ボールへのキャラクターや選手のサイン文字の印刷。滝澤社長は昨年度優勝した中日ドラゴンズの優勝記念ボールをみせてくれた。ボールには同チームのカラフルなマスコットの絵柄や選手たちのサイン文字が鮮明に印刷されている。特にこのカラフルなマスコットの印刷は4色機というパッド印刷機がないと出来ない。4色機とは、黄色、赤色、青色、黒色のインキ漕、4個のパッド、4台の原版が組み込まれている印刷機で、この4色のインキの配合比を変えることで、どんな色の印刷も自在というすぐれものである。

ここで同社の技能を覗いてみよう。

例えばスクリーン印刷に使うインキ。受注先から支給されるインキはそのままでは使えず、遅乾溶剤といわれる液体を混ぜ合わせねばならない。これにより、粘土は高いが、原版が目詰まりを起こさないインキができあがる。しかし印刷を続けていくうちに、溶剤が蒸発していき、印刷文字の輪郭がだんだんぼやけてくる。ここで同社の職人さんが、インキの粘土から溶剤の蒸発状態を察知し、適量溶剤を補填していくのである。まさに老舗の鰻屋さんが、秘伝のたれを継ぎ足し、継ぎ足しやっているのを思い出させる。まさに職人芸である。また同社のノウハウは印刷機にもこらされている。被印刷物上のゴミを取り除くためのエアーブローのスクリーン印刷機への取り付けや、パッド印刷機への休止タイマーへの取り付けである。特に後者は「仕事が不慣れなアルバイトのために印刷の間隔時間を設けるために考えらえた知恵です。ものづくりが基本的に好きなんですよ、こうしたちょっとした知恵が中小企業にとっては大切なことなんです」、にこっと笑った滝澤社長のこの一言が印象深かった。
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